未来の記憶




入院してからしばらくして、俺だけ仮退院の許可がおりたので、電話だけ入れてタクシーをひろった。
消毒液のにおいにずっと鼻を浸された状態だったから、町のにおいを強烈に感じる。
家の扉を開けたときは、他人の家に来てしまったようなよそよそしさを感じてしまったほどだ。

「堂島さん、お帰りなさい」
「あぁ。急に電話してわるかったな。用事あったんじゃないか?」
「いいえ。ちょうどジュネスに夕飯を買いに行ってたところだったんです」
「そうか。・・・留守中、世話になったな」
さりげなく俺の手から荷物を取った甥っ子に、かなわねぇなと苦笑する。

「無事でよかった・・・」
溜息のように漏れた声音に、背後から少年を抱きしめた。
あぁ、こいつがいる場所が俺の家だ。
抱き返されて、かぎなれたにおいに安堵する。

「傷、まだ痛みますか?」
「あぁ。まだ無理はできん。医者には体を曲げたり激しい運動をしたりするなといわれた」
「・・・」
「どうした?」
「・・・おあずけなんですね。まだ」
ふくみをもって腰をなでられ、言葉につまった。
「もうちょっと・・・待ってくれ」
「はやく治ってくれないと、俺、理性もちません」
甥っ子の体温を意識してしまい、俺も腰回りがあやしくなってくる。
「ま、ちょっと座ろうや」
「・・・はい」
台所の椅子にむかいあって座った。
この景色もなつかしい。
いれてくれたお茶をのみ、ふと自分の手元を見た。
爪がのびている。
そんな瑣末なことでさえ、生きている証のように思えてうれしい。
近くにあった道具で、爪を切った。
「・・・っ」
「堂島さん?」
「あ、あぁ。衝撃が傷にひびくんだ」
「切りましょうか?」
「いや、このくらいは自分でするさ」
「だめです」
「え?」
「そうやって堂島さん、いっつも無茶するじゃないですか。
こんなときくらい頼ってください」
「・・・でも」
「でもはなしです」

妙な迫力に、爪切りを渡した。
こいつ、俺が入院している間に、また成長したな・・・。
隣に座った甥っ子に、左手を差し出す。
さっきよりはましだが、パチ、パチ、と爪を切られるたび、
腹に多少の衝撃がいく。
それをこらえるたび、微かに頬がぴりっとするのだが、
甥っ子はその繊細な変化をも見逃さず、根気づよく切ってくれる。

「すまんな」
「俺がしたいことですから」
右手の小指を離され、ふぅと息を吐いた。
「ありがとな。助かった」
「ついでに足もしますよ」
「いや、今度にする」
「堂島さん。今日の返事は、「Yes」か「はい」だけです」
ぷっと噴き出した。
「お前、いうようになったな」

少年は俺の足下に正座し、
自分の太腿に俺の片足をのせた。
やたらゆっくり靴下が脱がされる。
その手つきが色っぽく見えてしまうのは、俺もそうとうたまっているのか。
甥好みの形に整えられていく爪を見て、そんな夢想をしていた。

ようやく全部の指が終わったが、甥っ子は俺の足を抱えたまま黙っている。
「・・・どうした?」
「・・・」
「おい。・・・っ!?」
止めるまもなく、足を高く上げられる。
ちょうど俺の足が、座った甥っ子の口あたりにくる位置だ。
「な、んだ?」

と、足の裏に、やわらかいものがふれた。
軽く、優しく、舌はつつくように。
ーーーくすぐってぇ。

「ちょっ、離せよ」
「激しいのは無理なんでしょ?」
「ん、まぁ」
「だから今日はこのくらいで我慢しますから」
「我慢するなら、やるなっ・・・!」
「どのくらい激しくても大丈夫か試しましょう」
「なにいって・・・」
うっ、と俺は言葉につまった。
いたずらのようなキスではあったが、俺のものがゆっくり反応してきた。
ど、どうする!?
目をキョロキョロさせているうちに、甥っ子が悟ったらしい。
服の上から、ゆるく撫でてきた。
「・・・っ」
「無理は、しませんから」
そういって、体のあちこちを優しく撫で、唇をおとしてくる。
体があたたまるていどの快楽がわきでてきたあたりで、腹の傷が傷みだした。
ぎゅっと体に力が入る。
「・・・」
「・・・どうした?」
少年は無言でシャツのボタンを止めなおした。
「今日は、ここまでで」
「我慢、できるか?」
抱きしめられて、耳元に、吐息がかかる。
「したいけど、傷つけたいわけじゃないですから・・・」
俺の背中にまわった腕に、力が入る。
その指が微かに震えていのに気づいた。


・・・俺は、ずっとこいつに心配をかけて、
だれかを失う恐怖を味わわせていてたんだな。

次も生きて帰ってくるという絶対の保証はできない。
俺は刑事だ。
また事件があれば命をかける。
帰らない予感におびえる苦労を、これからもかけるだろう。

だが、それまでこいつを愛すことはできる。
こいつが俺を想ってくれているように。

「堂島さん」
「ん?」
「今日、いっしょに寝ていいですか?」
「・・・あぁ」
「全快したら、覚悟しておいてくださいね」
「・・・恐ぇな」

いつものやりとりが楽しくて。

お互いの熱がおさまるまで抱き合って話をした。
ときおりいたずらっぽいキスをして笑い合って、幸福に満ちた時間だった。










久しぶりの主堂主でした。
もし一言だけ感想をいうならば、
「主人公、よく我慢した!」
緊張感がなくてすみませんw
まぁこれからもこの2人はイチャコラするがいいよ。

相手がちょっと弱ってるときって萌えますね。
えぇ、えぇ、風邪ネタ好きですとも。
書きたいですとも。
お楽しみにw