サヨナラを教えて




いい加減、あきらめたらいいのに。
封筒が届けられるたびに、そう思う。

囚人としてこの部屋に入れられて、足立はこの生活も悪くないと思っている。
外の世界で世間と自分の、欲と欺瞞にまみれた暑苦しい日々を送るより、シンプルでいい。
清々しいくらいだ。

ちら、と机に置いた封筒を見る。
自宅なら捨てるなり本の下に隠すこともできるけれど、最低限の物しかない刑務所では、その白さが際立って仕方ない。
表にしても裏にしても、机の上には、おせっかいな子の几帳面な字がある。

溜息を吐いて、封を破った。
予想していた通り、最初は時候の挨拶から。
大人より大人らしい文に、何時代の人間だよとつっこむ。
文面はいつも通り、足立の体を労り、最近の堂島家の様子や少年の近況がつづられていた。
相変わらず僕が返信しないことへの不満は書いていない。
最後の一枚。
末尾には、こうあった。

”必ず迎えに行きます”

「バッカじゃないの!?」

手紙を投げ捨てた。
穏やかな心を装っていたハリボテが、赤黒い風に剥がされていく。
立てた膝に顔を埋め、ぎゅっと目を閉じる。

僕に構うな、触れるな。
クソみたいな世界で勝手に青春してろ。
言われなくても、ちゃんと罪は償うから。
放っておいてよ。

そうじゃないと、隠した「欲望」が、ここから出せと暴れ出す。

君といたい。
君の声が聞きたい。
君と夢の話をしたい。
たとえ、君の未来を奪ってしまっても。

君の言葉は、「希望」に見えてしまうから。

「さっさと諦めろよ」






時は四月に戻される。
「足立さん」
同じ場所で、違う微笑み。
「お帰りなさい」
「……なんのこと?」
戸惑う少年を残して、足早に立ち去る。
もうあの子を巻き込まない。
僕から離れたところで健全に生きたらいい。


けれど、これだけは許してほしい。

震えそうな唇で、小さく小さく呟いた。

「ただいま」