学校生活一週間


 月曜日、うっかり忘れた英語の辞書(主人公の休み時間)
 火曜日、寝ていたところを指名され(1年生の教室)
 水曜日、息の合わない日直ふたり(2大美少女?)
 木曜日、放課後の美術室(放課後、後輩と課題を)
 金曜日、雨やどりしたバス停にて(絵馬とビニール傘と堂島家)
 土曜日、思いもよらぬメール(美少女対決!? 〜そして伝説へ〜)
 日曜日、天気は快晴。お出かけ日和。(朝だよ! 全員集合!)


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〜月曜日、うっかり忘れた英語の辞書〜



指先に冷たい感触がふれなくて、机の中をのぞいた。
入れたものをすべて出してみたが、やはり現状は変わらない。
「辞書・・・忘れたな」
次の時間までまだ時間がある。
隣のクラスに行った。

「一条、辞書貸してくれないか」
「あ、悪い。今日もってないなー。
長瀬〜! お前、辞書もってない?」
「あん? もってきたことないな」
「そっちかよ! ・・・悪いな。うちのクラス、今日ないんだ英語」
「いいんだ。他のクラスあたってみるよ」

軽く手をふって、廊下に出た。
さて、どうしようか。

「あれ、相棒。どうしたんだ?」
「あぁ・・・辞書を借りに行こうと思って」
「ふーん。俺、日誌取りに行くから、ついでに借りてこようか?」
「いや、俺も行くよ」


「え? 辞書ですか?」
職員室から出てきた直斗に頼んでみた。
「ちょっと待っててもらえますか」
するりと教室に入り、ロッカーを探っている直斗を眺める。
普段、あまり意識していなかったが、
片膝をついている背筋がぴんと伸びていて、きれいだ。

「お待たせしました。ちょっと重いですが・・・」
「ありがとう」
渡されたのは、やや古風な装丁の英語辞書だった。
大切に扱われているのがわかる温かみを感じる。
「すみません。電子辞書は忘れてきてしまって・・・」
「いや、そうじゃないんだ。大切に使われているなと思って」
「・・・白鐘家からもってきたものなんです」
ぽつり、と直斗が呟く。

「新しい英語表現は記載されていませんが、
確認作業ならことたりると思います」
「あぁ。ありがとう。
大切に使わせてもらうよ」

「あの・・・僕、『祖父』のことをいいすぎでしょうか」
「え?」
「クラスの子たちから、そういわれて・・・」
直斗は目をそらした。
もしかしてこの辞書も・・・?

「お祖父さんのこと、大切に思っているんだろう?
恥じることはないさ」

ぽん、と帽子に手を置く。

「今度、話聞かせてくれ」
「は、はい!」

表情が柔らかくなった直斗に、俺は微笑む。

「あ、予鈴ですね」
「じゃあな」
「は、はい。あの、先輩・・・!」
「ん?」
「え、いや、・・・また」
「あぁ。今度、放課後誘うよ」

軽い足取りで階段を駆け上がっていった。



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〜火曜日、寝ていたところを指名され〜




「巽! 巽 完二!」
「・・・っんだよ、うっせぇな」
「完二! 起きなよ。あてられてるよ!」
「あん?」

りせの声に、亀のように顔を上げる。
センコーと目が合った。
「巽、起立」

眠い目をこすりながら、しぶしぶ立つ。

「この問題に必要な公式は?」

「わかんねーよ」

「1、2、3番から1つ選んで」

「だから、わかんねーって・・・」

いらっとしたとき、横から小さな咳払いが聞こえた。

直斗が俺のことを、じっと見ていた。
おもむろに、帽子を2回下げる。

・・・・・・・・・えーっと?

今度は、ゆっくり2回瞬いた。

・・・・・・・・・まつげ、なげーな。

「ちょっと、完二」

りせの声に、はっとして、黒板の公式をにらむ。
こうなりゃ、勘だな。

「・・・えーっと、
・・・・・・・・・2番?」

「正解! この2番の公式を使って・・・」

センコーが黒板になにやら書き始める。

教室の空気がゆるんだすきに、
俺は直斗の方に拳をつきだした。

「えっ・・・」

帽子を下げて直斗がうつむく。

じょじょに染まっていく頬を隠すように、
小さく拳を出した。



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〜水曜日、息の合わない日直ふたり〜



「なんであたしが、こんなことしないといけないのよ。制服汚れちゃうじゃない」
「海老原さんが昨日、日直さぼったからでしょう〜」

元からいやいや黒板を消していたのに、ますますやる気がうせた。

「あ〜めんどくさい! 大谷、あんたやっといてよ」
「だめよ。今日は新商品買いに行かないといけないんだから」
「どうせ肉まんとかでしょ!?」
「沖奈市の・・・」
「コンビニ!?」
「映画館の横の・・・」
「ゲーセン?」
「雑貨とか服を売ってる・・・」
「あ、あ〜〜〜! 聞きたくない聞きたくない!」

ふさいだ耳のすきまから、 小さな笑い声が侵入する。
自分の中で急激に何かが燃え上がった。

「・・・大谷、この後つきあいなさい」
「え〜?」
「あんたとの格の違いを見せてやるわ!」
びしっと人差指を突きつける。
カバンを机の上に置いて、敵がニヤリと笑った。

「負けた方は、肉まん、おごりよ」



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〜木曜日、放課後の美術室〜



とぎれとぎれのトロンボーンと演劇部の発声練習が不思議なハーモニーを生む廊下を通り、
美術室の扉を開けた。
見慣れた先客がいた。

「うぃっす先輩」
「・・・どうも」
軽くあいづちをうって、
完二と小西の近くに荷物を置いた。

「珍しいっすね。先輩が補修なんて」
「時間内に納得のいく作品ができなくてな」
「まじめっすね先輩。俺なんて今までサボってた分の作品作りっすよ」
「・・・俺は休んでた分です」
「ま、さっさとこれ完成させて、今までの分、取り返してやるっす!」
「・・・だな」

彼らのひたむきさに、俺は微笑んだ。
「俺もがんばらないとな・・・」


クロッキー帳を取り出し、鉛筆を削りはじめた。

「先輩の課題って、何なんすか?」
「人物デッサン。バランスがうまくいかなくて」
「だれ描いてるんすか?」
「1枚は石膏。それはできたんだけど、あと1枚以上、身近な人を描かないといけないんだ」
「ふーん。ちょっと見せてくださいよ」
止める前に、完二がクロッキー帳をめくる。

「先輩・・・なんか線がかたいっす。つーかときどき波打ってるっす」
「実は、あんまり得意じゃないんだ」
「そうなんすか? 意外っつーか、なんつーか。
それでも一生懸命なのが、先輩らしいっす」
「・・・確かに」
ぽそりと小西も呟く。

「完二は絵、得意だろ? こつとかあるのか?」
「いや〜俺の場合、勢いで描くっつーか。勝手に手が動きますね。
調子いいときは、紙の上に線が見えてきて、それをぐいぐいなぞるって感じですけど」
「すごい・・・」
「へへっ。大したことないっすよ」
「すごいよ完二。今度、手本見せてくれ」
「そうっすか? 先輩に力貸せるなら、うれしいっす! だろ? 尚紀」
「・・・そうだな」

あぁ、俺はいい後輩をもったな。

「2人がいたら、俺もがんばれるよ。ありがとう」

自然と笑みがこぼれた。

「・・・? どうした?」
「先輩・・・」
「その笑顔は反則っす・・・」

ぎこちなく作業に戻る2人に、首を傾げた。




準備を整えて、俺は「完二」と呼んだ。

「・・・な、なんっすか?」
「完二、モデルになってくれないか?」
「えぇ!? 俺、脱ぐのはちょっと・・・!」
「いや、課題は顔だけだから。完二は自分の作品に集中していてくれ。
俺は、じゃまにならないように描かせてもらうから」
「・・・はぁ、まぁ、先輩の役に立てるんだったらいいっすけど」
「ありがとう」

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・だーっ! だめだ! 俺にはできねぇ!
すんません先輩! 俺ぁ俺ぁまだまだ半端もんだぁあああああ!!!」

バーン! と勢いよく扉を開けて、完二は出ていく。
突然のことに、俺は瞬きすることしかできなかった。


「・・・完二、どうしたんだろう」
「それは、先輩が・・・」
「え?」
「何でもないです・・・」
沈黙が下りる。
「・・・尚紀」
「お、お、俺も無理ですから!」
「・・・そうか」

課題、どうしよう?

通りがかった美術の先生を呼び止めた。
「先生。課題なんですが、写真を見て描くのはいけませんか?」
「”生”の息吹が出ないからね」
「・・・わかりました。モデル、探してきます」

クロッキー帳をもって美術室を出た。
校内を探せば、1人くらい描かせてくれる人はいるだろう。

校庭に視線を向けると、だれよりもはやく完二が走っているのが見えた。


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〜金曜日、雨やどりしたバス停にて〜



通りすぎた風は、湿った森のにおいがした。
夕立がくるのかもしれない。
あわせていた手を垂らし、小声で狐を呼んだ。

「願いごと叶えてきたよ」

賽銭箱のまわりをくるくるまわった狐は、
足取りも軽く俺の傍で甲高く鳴いた。

「お前が幸せだと、俺もうれしいよ」
首の下を撫でてやると、うれしそうに喉をならした。

「俺も、絵馬に願いごと書いてみようかな・・・」
あぁでも結局、俺が解決しなきゃいけないのか・・・。
狐の顔をうにうにしながら、昨日のことを思い出す。

課題のデッサンをするためにモデルを探したのだが、
校内ではとうとう見つからなかった。

「部活の延長練習で、ちょっと・・・」
「旅館の手伝いがあるから」
「しゅ、修行しなきゃ!」
「ジュネスのシフトが」
「クマはいいクマよー!」「おめーもシフトだ!」
・・・と、みんな、忙しそうだった。
俺だっていつもいっしょに行動しているわけではないし、しかたない。
それよりも去り際のみんなの表情が気になった。
風邪でもひいているのか、顔が真っ赤だった。
大事なければいいが・・・。
俺も体調には気をつけよう。
菜々子にも温かくして寝るように、いっておいた方がいいだろう。

そうだ。
堂島さんか菜々子にモデルを頼んでみようか・・・?
それももし断られてしまったら・・・。

狐を覗き込む。
「だれもいなかったから、描いていい?」
「コーン!」
どうやらまんざらでもなさそうだ。
「ありがとう」
思う存分スキンシップをとってから、神社をあとにした。




四六商店を通り過ぎるころ、急に雨が降ってきた。
どうにか本屋の前まで走って、雨宿りさせてもらう。
「傘、ないな・・・」
近所の人も小走りで立ち去り、商店街はたちまち雨音に包まれる。
やみそうにない空模様に、立ち読みでもしていこうかと思ったとき、
「あれ〜?」と聞きなじんだ声がした。
バス停の方だった。
透明のビニール傘、濃い灰色のスーツ、赤いネクタイ、猫背の立ち姿。
「足立さん?」
「あ〜、やっぱり。君、堂島さんとこの」
「こんにちは!」
声を少しはりあげて、俺はあいさつした。
ちゃんと聞こえただろうか?

足立は、なにごとかいって、ちょいちょいと手招きした。
その仕草が、やたらと幼くかわいらしくて、俺は小走りで足立さんの傘に入り込んだ。
「すみません、傘もってないんです」
「あ、そうだったの? ごめんごめん。濡れちゃったね〜」
「いえ、平気です」
「そう? 風邪ひかないようにね〜」
「ところで、俺に何か?」
「え? あぁ、これ堂島さんから預かってね。
持って帰ってくれる?」
ジュネスの袋を渡される。
中は焼肉の材料のようだ。
「今日、ジュネスに聞きこみいっててね。
べ、別にさぼりじゃなかったんだけど、堂島さんにばったり会っちゃって、
用事頼まれたんだよね。まぁ直帰していいってことだったから別にいいんだけど、
ここで君に会えて、よかった〜。
じゃ、頼んだよ!」

背を向けかけた足立の腕を、俺はとっさにつかんだ。
「あ・・・」
「え? 何?」
きょとんとする足立以上に、俺は自分の行動に驚いた。
考えてやったことではなかった。
衝動に近い。が、その理由がわからない。
「あの・・・」
どうにか言葉を探し出す。
「・・・そうだ、足立さん。よかったらご飯食べにきませんか?」
「え?」
「焼肉の材料、たくさんあるんですよ」
「え〜? 急に行くのもなぁ・・・」
「材料余らしても、もったいないですし、家計を助けると思って・・・!」
「え〜何それ? 変なの」
ぷっと噴き出す足立に、俺はたたみかける。
「俺、傘もってないですし、送ってもらったら、そのお返しってことで。
・・・だめですか?」
「だめじゃないけどさぁ・・・」
「お願いします!」
足立の肩にぶつかりそうな勢いで、頭を下げる。
「あ〜わかったわかった。顔あげて。ね?
僕が悪者みたいじゃない?」
「いいんですか?」
「もう、そんな顔されたら断れないでしょ?」
「ありがとうございます!」
「はは、ごちそうになるの、僕だし。
今日はおいしいの食べさせてもらおうかな」
うれしくなって、俺は微笑んだ。

「傘、俺が持ちますよ」
「そう? じゃあお願いしよっかな」
傘を受け取り、なるべく足立が濡れないように差しかける。
それでも男2人だ。
肩がふれそうなくらい、足立と距離をつめて歩いた。

「びっくりしたなぁ」
「え?」
「君、いっつも冷静沈着だけど、
さっきみたいに取り乱すこともあるんだね」
「そういえば・・・あまりないですね」
「はは、いいと思うよ? その方が人間らしくて」
「そうですか?」
「うん。感情も欲もないなんて、嘘くさいじゃん?
思ったことを素直にいえたり行動できたりするなんて子供のときくらいなんだからさ、
もっと甘えたりわがままいってもいいんじゃない?」
「甘える・・・」
「強制じゃないけどね。
自分の感情を素直に表現するのが、難しいって人もいるし。
でも、少なくとも、僕はそっちのほうが好きだな」
「そうですか?」
「まぁ、人によるけどね。
はは、ちょっと説教くさかったかな?」
「・・・いえ」
「ま、まぁ深刻にならなくていいから!
ほら、見えてきたよ。玄関の鍵、用意しといてね!」
足立が、おどけたように笑う。
気遣いの心を感じて、俺は微笑み、うなずいた。





「足立! あ〜だ〜ち!」
「ふぁいぃいい。上カルビ、ごちそうさまですぅううう」
「・・・だめだこりゃ。こいつ、起きねぇな」
酔っぱらって、こたつに顎をのせたまま船を漕ぐ足立に、
堂島が溜息を吐いた。
「しかたない。明日非番だし、寝かしといてやるか。
菜々子、かけ布団かタオルケットもってきてくれ」
「は〜い」
「ほら、横になれ」
「ん〜もう食べれませ〜ん」
「・・・ったく」

風邪をひかない程度に足立を寝転がせ、堂島はあくびした。
「お前らも、もう寝ろ。片付けは明日でいいから」
戸締まりを確認し、堂島と菜々子は部屋に戻っていった。
俺も2階に上がろうとして、ふと足立を見た。

バス停でのやりとりが、頭をかすめる。
足立からはこちらに踏み込んでくるのに、
俺から歩み寄ろうとすると逃げようとする・・・あの表情。

今は、傍に座っても、顔を近づけても無防備に寝息をたてている。
狡猾さのかけらもない、素直な表情。
見ているようで、わかっていなかった顔の造形。
今は桜色に染まる頬。
まぶた、鼻梁、唇、こぼれる吐息。

心臓が、高鳴る。


俺は2階に駆け上がった。
机の上に広げたままの買ったばかりのデッサンの本を、ちらと見る。
必要なものだけむしり取るように持って、居間へ駆け下りた。


本能にかきたてられるように、足立を凝視する。
鉛筆が走り出していた。



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〜土曜日、思いもよらぬメール〜



菜々子と食器を片付けて、自室に戻った。
今日は約束がある。
携帯をポケットにいれようとしたら、メールがきた。
海老原からだ。

”今日、つきあって”

「悪い。先約がある。・・・っ」

”あんた、私の頼みを断ろうっての?”

最後につけられたラメつきのドクロマークがこわい。

「いや、そうはいっても・・・」

謝罪メールを出そうとして、ふと思い立って書き直す。

”友達つれていってもいい?”

”はぁ!? ・・・まぁいいわ。
沖奈市に集合。絶対だからね!”


増えたドクロマークに、冷や汗をかきながら携帯を閉じる。
・・・いや、待てよ。
普段の海老原ならもっと罵詈雑言を書きこんでくるはずだ。

「嵐の前の静けさか?」
ぞくっと寒気が走る。
「・・・覚悟するか」

まずは商店街に向かうことにした。





「遅い!」
「ごめん・・・」
「すっっっっごく待ったんだから!
・・・って、だれ?」
「あぁ。海老原は初めて会うんだっけ。
紹介するよ。マリーだ」
「・・・マリー?」

じろじろとマリーを見て、海老原は顔をしかめる。
さらに機嫌が悪くなったようだ。まずい。

「で、今日はどうしたんだ?」
「・・・決着よ」
「は?」
「今から女の戦いに決着をつけるの!!!」

服屋を指さし、海老原はまくしたてる。
「敵はもう店内にいるわ。
あいつと私、どっちがよりおしゃれでかわいいものを選んでいるか、
審査して! 拒否権はないわよ!」

「私もやるの?」
マリーが首を傾げる。

「・・・そうね。
あんたには聞きたいこともあるし、つきあってもらうわ」
「終わったらあれやりたい」
海老原の猛火をかわし、マリーはゲームセンターの方を見る。

「行くわよ!」
ずんずん進んで行く特攻隊長に、新兵2人も着いて行った。


「あら〜海老原さん、遅かったわね〜」
「は! こっちは余裕だからね!」
「海老原・・・もしかして、勝負って・・・」
「そうよ! こいつとの決着よ!」
「こんにちは〜」

大谷が、ニヤリと笑う。いや、にこり、か。

マリーが俺の方を向く。
「知り合い?」
「あ、うん。同じ学校なんだ」
「ふぅん。あの緑と赤の人といっしょ?」
「あぁ」
「いろんな人がいるんだね、学校って」
「・・・そうだな」


「・・・そろそろいいかしら?」
ーーー殺気!?
マハムドオン並のいやな空気を感じ取り、海老原たちの方に視線を戻した。

「あ、あぁ。ごめん。勝負だっけ?」

「そうよ。ルールは簡単。私と大谷が選んだアイテムのどちらが、
よりセンスがよく本人の魅力を引き立てるものか審査して」
「ふふ。もちろん私が勝つけどね〜」
「うっさい大谷! 今日こそは決着つけるんだから!」
「・・・あのさ。店員さんに選んでもらったら?」
「だめだめ! ここの店員、『2人ともお似合いですね』とか
お世辞いうんだから! 買いに来てるお客もそうよ!
審査するどころか逃げるのよ!?」

気持ちは、俺もいっしょだ。

「じゃあいくわよ。私はこれ! こうやって巻いたらかわいいでしょ」
「私はリボンのかわりに〜、これを髪につけたらどうかなって」

2人とも、自らの感性で勝負に出る。
どちらも、それぞれの個性を引き出すものを選んでいると思うが・・・。

「さぁ、どっちがかわいい!? どっちとつきあいたくなる!?」
「ふふふ。もちろん私よね〜? いい女は困るわ〜」

「ちょっ! 2人とも趣旨が変わってないか!?」
「うっさい! さっさと選びなさいよ! つーか迷う理由がないでしょ!?」
「そうよね〜。このあと、アイスクリームと肉丼おごらせてあげるわよ〜?」
「2人とも、落ち着けって!」
「これが落ち着いてられ・・・!?」

そのとき、それまで黙っていたマリーが、すっと動いた。

「な、なによ?」

うろたえる2人をよそに、腕組みしたまま、まず大谷を見た。

「リボンの人。これ、バッグにつける方がいいよ」

今度は海老原を見る。
「ピンクの人は、あの巻き方の方が、似合うよ」
展示してあった雑誌を軽く差した。

確かにマリーがいったようにすれば、
それぞれが、さらに魅力を増すような気がする。


「ね、きみ、次のとこ、行こうよ」
マリーが俺の顔をのぞきこんでくる。
「あ、あぁ。そうだな」

固まっている2人へのあいさつもそこそこに、
俺はマリーに引きずられるようにして店内を出た。




「・・・」
「・・・」
「・・・海老原さん」
「・・・何よ」
「・・・肉まん食べに行かない?」
「・・・・・・・・・ピザまんも追加」

「話、わかるじゃない」
「今日は、特別よ」
「そうね」

ぎらっと両者の目が光る。

新しいコミュニティが生まれた瞬間だった。



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〜日曜日、天気は快晴。お出かけ日和。〜



階段をおりるとジュネスのCMソングが聞こえてきた。
「おはよう」
「おはようお兄ちゃん」

堂島さんはすでに出かけたようだった。
洗いたてのマグカップを横目に、朝ご飯を食べる。
昨日の嵐のような一日とうってかわって、今日は予定がない。
「菜々子は今日、どうするの?」
「ん〜洗濯? おするばんなら、1人でできるよ」
菜々子は微笑んだが、少し寂しそうだ。
そういえば最近忙しくて、ろくに話してない。

「菜々子。よかったら今日、いっしょに遊びに行かないか?」
「え? いいの?」
「うん。今日は菜々子といたいな」
「やったぁ! じゃあ、用意してくるね!」
軽やかな足音に、頬がゆるむ。
窓から差し込む光もやわらかい。
今日はいいことがありそうだ。



財布よし。
携帯よし。
戸締まりよし。

「行こっか」
「うん!」

ピンポーン。

「だれだろ?」
「あ。俺が出るよ」

小走りで玄関を開けた。

「先輩ー!」
「お、おはようございます」

「りせ、直斗。めずらしいな」
「す、すみません。急に連絡もなしに・・・」
「いいんだ。で、どうした?」
「へへ〜、先輩、今日遊びに行かない?」
「菜々子がいるけどいい?」
「もっちろん!」

俺は玄関から菜々子を呼んだ。

「ちょっと待って!」

菜々子が自室に戻っていく。
忘れ物だろう。

「そういえば先輩、デッサンのモデルを探してるんでしょ〜?」
「うん。でも、もう見つかったんだ」
「えぇ!? そうなの? はやくいってくれたらよかったのにー!」
「まぁ僕も久慈川さんも放課後は学校にいなかったから、しかたありませんよ」
「2人でどこか行ってたのか?」
「直斗君の服、見に行ってたんだよ♪
スカート見てたんだけど・・・直斗君。自分にはまだむりだっていうから、
トップスのかわいいのいっしょに買ったんだ。
ほら今日着てる、これ」
「ど、どうですか?」
直斗が恥ずかしそうに、服をつまむ。
「かわいいよ」
「ほ、ほんとですか!?」
「うん。すごくかわいい」
「でしょ! 直斗君もすみにおけないなー。
今日は他のも見に行こう!」
「りせ、優しいな」
「へへ。先輩のも見てあげるよ♪ もちろん菜々子ちゃんのも!」

「お待たせ〜! あ、おねえちゃんたち、こんにちは!」
「こんにちは菜々子ちゃん! 今日はいっしょに遊ぼうね!」
「うん!」

鍵をかけて、家の前で行き先を相談しかけたときだった。


「お〜い!」


自転車の音とともに、陽介がやってきた。
「相棒! この前のうめあわせに来たぞ!」
「え?」

「お〜い!」
今度は千枝が来た。
「え〜!? 私との修行は?」

「あら?」
雪子が歩いて来た。
「みんな、出かけるの?」

「待てクマ公ー!」
「へへ〜、お菓子は先に食べた人のものクマよ♪」
目立つ足音の2人もやってきた。


「なんか、全員、そろっちゃったね」
「えぇ!? 相棒、今日は俺と遊びに行くんじゃなかった!?」
「私もその予定だったんだけど・・・」
「え〜!? 先輩たちずる〜い! 先輩は私と行くの〜!」
「み、みなさん、落ち着いて!」
「じゃあ女の子たちはクマとデートするクマ!」
「ったく。お前は、いっつもそうやって・・・!」


「お兄ちゃんたち、けんか?」


小さな、しかし、よく通る声に、みんなの動きがぴたりと止まる。

「そ、そんなことないよな」
「そ、そうだよ。私たち仲良し捜査隊が、けんかなんてするわけないって!」
「ごめんね菜々子ちゃん。こわかった?」
「・・・ちょっとだけ」
「ごめ〜ん菜々ちゃん! クマのチッスで許して〜」


「じゃ、じゃあ、みんなで遊びに行こう!」

全員の視線が、俺に集まる。

「たまには捜査抜きで、な?」
「そうさ?」
「え? いや、ほら、菜々子の行きたいところでいいから!
どこがいい?」
「ジュネスー!」
「もっと遠くでもいいぞ?」
「え? えっとじゃあ・・・」
「菜々子ちゃん。沖奈市に行ってみない?」
「新しいお洋服とか、映画館とか、いろいろあるよ」
「ほんとー!? 菜々子行きたい!」
「決まりだな! 電車の時間は、俺にまかせとけって!」
「助かるよ、陽介」
「菜々子ちゃんと相棒のためなら、一肌脱ぐぜ!」

「お兄ちゃん、楽しみだね!」
「そうだな」

「じゃあ、私、先輩の横いっちゃお〜っと」
「く、久慈川さん!? ちょっとずうずうしいんじゃありませんこと?」
「せ、先輩、あの、相談したいことが・・・」
「この1週間・・・私、あんまり話してなかった」
「先輩! 俺も!」
「相棒〜?」
「クマも寂しんボーイよ?」

じりじりと近づいてくるみんなに、俺の目はさまよう。


「・・・菜々子」
小さな手をぎゅっと握る。
「・・・走るぞ」
「うん!」


『待てー!!!』



笑い声と叫び声と様々な思いのつまった足音が、青い空にとけていく。
新しいはじまりの予感に、俺はこっそり微笑んだ。
















お題お借りしました。「chiru」