絆フェスが終わった。
真下かなみは、稲羽市に帰ることになった堂島親子を見送りに来ていた。
話し込んでいるところに、予約したタクシーが近づき停まる。

「堂島さん、菜々子さん、本当にありがとうございました」
「こっちこそ、菜々子が世話になったな」
「菜々子、すっごく楽しかった! また、かなみんとダンスしたいな!」
「菜々子さん、私もです〜! また一緒にダンスすべし、です!」
「ダンスすべし〜♪」
同時に微笑む。息がぴったりで嬉しい。
「そろそろ行くぞ菜々子」
堂島がタクシーに乗り込む。
菜々子は、顔を曇らせた。
「菜々子、かなみんとお別れしたくない……」
「……菜々子さん」
菜々子が悲しいと、かなみも悲しい。
溢れかけた涙をぐっと堪え、バッグから、思いついたものを出した。
「菜々子さん。よかったら、これを持っていってください」
カリステギアの楽譜。かなみが使っていたものだ。
「え!? いいの?」
かなみは力強く頷いた。
「菜々子さんが、みなさんがいなかったら、私、本当の意味で、カリステギアを歌えていなかったと思います。……この歌は、絆の証。離れていても私たちは繋がっています」
菜々子が泣きそうになる。かなみは慌てて付け足した。
「それに、この楽譜さんは、歌ってよし! 弾いてよし! の優れものなんです! 菜々子さん、ピアノ習ってるって聞いたので、よかったら弾いてみてください」
「ありがとう……。菜々子がんばる!」
「あい! 次に会ったときは、菜々子さんのピアノで踊りたいです!」
「うん! 一緒にやろうね!」
ぎゅっと抱きしめ合う。

同じ時間、同じ気持ちを共有できたなら、
それが次へと進む勇気と希望になる。
もっと楽しく、輝いて、次に会えたときに話せるように。

「菜々子、行くぞ」
「うん! またね、かなみん」
「はいです! お二人ともお気をつけて!」
手を振る菜々子を乗せて、ドアが閉まる。
かなみは、タクシーが見えなくなるまで手を振った。


菜々子もずっと手を振った。
かなみの姿が見えなくなると、お守りのように楽譜を抱きしめた。

しばらくして駅で電車に乗り換える。
お父さんと一緒に座ると、膝の上に楽譜を置き、楽しそうに指を動かし始めた。