凍てついた潮風が髪を嬲る。
ぶるっと身震いすると、左側を歩いていた少年が微笑んだ。

「手、つなぎます?」
「いい。ポケットの中、あったかいから」

しゅんとする気配。
僕は、何も言わず波打ち際まで歩いた。

しぶきがかからない所で立ち止まって、冬の海を眺める。

はやく左からの視線が逸れればいいのに、と思う。


「あのときのこと、覚えてますか」
僕は振り向かない。

「足立さんと海に来たのに、夕立に降られて」
「そうだったかな」

「雨に透けたシャツを、足立さんが自分でめくり上げて」
「めくってないし! やったの君だろ!?」

思わず左を見て。
最高の笑顔に出会ってしまう。

「覚えてるじゃないですか」
「う、うるさいなぁ。それで何で、こんな寒い日に海に来てるわけ?」

白い息を吐いて、波の向こうに目をやった。
灰色の海。重たげな黒雲。
それらを清めるように、白い雪が音もなく降っている。

こんなところに来たくなかった。
こんなところに来る必要もなかった。

それなのに、一番ややこしい人間に連れられて、砂を踏みしめている。

モッズコートがはためく。
そろそろ厚手のコートが欲しい。

くちっ、と小さいくしゃみが出た。
今度は少年は何も言わなかった。


沈黙が何度目かの波の音に濡らされた後、


「もうすぐ春ですね」
「あぁ。君、帰るんだっけ」

「だから・・・」

「ん?」

「足立さんと、ここに来たくて」

少年はようやく、海を見た。


僕は、その横顔から目が離せなくなった。

銀の髪。白い肌。思慮と情熱を綺麗に閉じ込めた瞳。
1年で、大人っぽくなったなと思う。

本人には、絶対に言ってやらないけど。


「そろそろ帰ろうよ」
「もう少し」
「風邪ひいちゃうよ?」
「次、いつ来れるかわかりませんから」
「君、学生でしょ? 来ようと思ったらいつだって・・・」

「いつだって、か」

ひやりとした声に、さすがに無神経だったかと思う。

「・・・ごめん、言いすぎた」
「いえ・・・」

少年はこっちを見ない。

「ねぇ」
「・・・」
「あの、さ」


初めての無視。
こんな子、どうでもいいはずだろ、と鼻で笑う自分がいる反面、
うろたえる自分もいる。


気づけば、少年のコートの裾を、きゅっと掴んでいた。


「帰ろう」

出てきたのは、そんな言葉で。

「風邪、ひいたら、大変だろ?」
「・・・」
「ねぇ。何とか言いなよっ」
沈黙している右手を、ぎゅっと握る。


思った以上に、その手が温かくて。
火傷したみたいに、手を離した。
が、離す前に両手で握り込まれた。

「ちょっ、」
「・・・冷たいですね」
「え」
「足立さんの、手」

捨てられた子猫を抱きしめるように、僕の手は少年の胸に優しく押し付けられる。

「足立さん、冷たい」
「・・・まぁね」
「冷たい、です」
「君よりはね」


指先からじわりと熱が伝わってくる。
なんだか落ち着かなくて、「ねぇ」と少年を見上げた。

「・・・帰ろ?」



ふかふかした砂の上を歩きながら、ふと明日は休みだな、と思った。






久しぶりの更新が暗くてすみません!

ちょっと足立さんをでれさせてみました!
そしてチューがない!<驚愕
単なるセ☆ハラ発言だけ!
・・・拙宅では異色の作品になったかも(笑)

次はラブいのを書きたいですね〜♪♪♪