夏的恋愛二十題
1.薄着にドキッ
2.この夏、何したい?
3.うちわでパタパタ
4.水遊びって年でもないけど
5.今日から別々に寝よう(主足主)
6.縁日の景品
7.ホラー映画見に行こう
8.アイスを舐める姿に×××
9.汗の匂いにまで興奮します(足堂足)
10.熱中症の君に膝枕(主足主)
11.「暑い暑い」「じゃあ離れれば?」
12.裸でウロウロ
13.二人で花火もオツなもの
14.どこへ行っても混んでいるので
15.じりじり。ちりちり。いらいら。
16.蚊ネタ
17.寝苦しい夜の過ごし方
19.やり残したこと
20.二人でいれば冬でもアツい
**********************************************
足立は風呂上がりの少年を手招きした。
ベッドの端に一緒に座って、できるだけ無表情に言う。
「今日から別々に寝よう」
「どうしてですか」
「暑苦しい」
「そんな理由ですか」
「そんな理由だよ」
「クーラーつけたらいいじゃないですか」
「君、抱きついてくるだろ?」
「はい!」
「……そんな熱いキャラだっけ? まぁそういうことだから、別のところで寝て」
少年は渋々頷いた。足立はベッドに横になる。
「……ちょっと」
「はい?」
「なんでベッドにいるの?」
少年は足立の左右を指した。
「いつもと逆です」
別の場所だと言い張るらしい。どちらにしろ、足立の横である。
何か言いたかったけれど、眠気の方が勝った。
「……おやすみ」
「おやすみなさい」
部屋を暗くして、目を閉じる。
「足立さん」
「……」
「……帰れって言われないだけ進歩かな」
「……うるさいよ」
ようやく静かになって、背中を向ける。
狭い。寝苦しい。結局、暑苦しい。
少年が身じろぐ。
髪の匂いに混じって、涼しげな少年の体臭が香ってくる。
伸びてきた腕に、そっけない反応をして、足立は頬が熱くならないように唇を噛んだ。
→ページの先頭に戻る。
**********************************************
商店街で聞き込みを終えた堂島と足立は、一旦署に戻ることにした。
駐車場までの道を歩く。暑くていつもより遠く感じる。
「足立」
「はい?」
木陰で堂島の足が止まった。足立もそれに倣う。
「曲がってるぞ」
首を傾げる足立の襟元に、堂島の指が伸びた。
ネクタイの結び目が解かれる。新婚みたいな作業に、幻のエプロンが翻る。
「きつくないか?」
視線が合う。汗の匂い。
ぞくっとして、堂島の指を掴んだ。
「僕と結婚しません?」
「あ? 早く行くぞ」
背中を叩かれて、軽くむせた。
「ちょっと本気だったのになぁ」
張り付いたシャツを撫でて、足立は前を行く人を追う。
「堂島さ〜ん」
無言を貫く人の顔を見て、足立は頬を緩める。
そして赤く染まった耳朶に唇を近づけ、誓いの言葉を囁いた。
→ページの先頭に戻る。
**********************************************
冷凍庫からビニール袋に入った氷を取り出した。
溶けかけたものを再度凍らせたから、パイナップルみたいな形になっている。
隣の部屋に持って行き、床に寝転がっている少年の額にあてる。
「どう?」
少年は目を開け、一度ゆっくり瞬きした。
声を出すのはまだ辛いらしい。
顔色は少しよくなったので、峠は越したのだろう。
足立が帰宅したとき、少年は真っ赤な顔で部屋に倒れていた。
軽い熱中症だった。
夏バテ、バイトの掛け持ち、友人との付き合いで体力が落ちていたのに、炎天下の中ずっと今日は外にいたらしい。
「辛いときは素直に病院行きなよ。僕のところじゃなくてさ」
「……」
「だいたい、みんなにいい顔しすぎなんだよ。それで体、壊してどうするの」
「……すみません」
「君が倒れても喜ぶのは僕くらいだから」
「……」
「冗談だよ」
「……次は倒れません」
「懲りないね、君も」
脇に挟んだアイスノンを回収し、体温計を渡す。
足立が風邪を引いたとき、少年が持ってきたものだ。
すぐに電子音が鳴る。表示は微熱だった。溜息が出る。
「無茶したら……堂島さんが困るんだから……気をつけなよ」
「そこは、嘘でも『僕が困る』って言ってほしいです……」
少し力のこもった声で少年が言う。いつもの調子が出てきたらしい。
図々しくも足立の膝に頭を乗せてきた。
「……ちょっと」
「今日だけ」
少年は微笑んで目を閉じる。
「ねぇ」
「……」
「……起きてる?」
少年の顔をじっと見るが、形のいい唇は静かに呼吸をくり返すだけだ。
「膝貸すのだって、楽じゃないんだよ?」
乱れた銀髪を指ですくう。
「……早くよくなりなよ」
思わず出た言葉に、ぱっと指を引っ込める。
額の氷が溶けて床に落ちたが、しばらく拾うことができなかった。
→ページの先頭に戻る。
**********************************************
十二時を知らせる町内放送が流れた。
もうそんな時間かと汗をふきながら商店街を歩く。
愛家の扉に「冷やし中華はじめました」の張り紙を見つけ、堂島は足立と一緒に入った。
サラリーマンや女性客の傍を通って、壁際の席につく。
「いらっしゃい! 何にします?」
「冷やし中華」
「僕、スープで」
店員に注文した後、堂島は正面に座った足立を見た。
「食べないのか?」
「食欲なくて」
苦笑いする足立を、まじまじと見た。頬が少しこけている気がする。
「お前、痩せたんじゃねぇか?」
「そうかもしれませんね」
そういえば足立の家には体重計がなかった。
おしぼりで手を拭き、水を飲む。
足立は壁に凭れ掛かり、目を閉じる。
顔色が悪いのは店内のクーラーのせいだけではないだろう。
注文した品が来たが、足立は少し口をつけただけで、再び目を閉じた。
年よりも幼く見える顔に汗が浮かんでいる。
堂島はもう一つ冷えたおしぼりをもらい、足立の顔を拭いた。
「お前、急ぎの仕事あったか?」
「明日までの書類が、ちょっと」
「机の上か?」
「はい。ファイルの中に…」
堂島は急いで冷やし中華を食べ、一人だけ先に店を出た。
愛家の前に車をつけ、足立を乗せる。
「忘れ物ですか?」
堂島家に駐車すると、足立は首を傾げた。
「お前も来い」
居間に入ると、堂島はクーラーを入れた。
足立に座るように促し、机をテレビの方に寄せる。
寝室から布団を持ってきて敷き、目を見張る足立に、一緒に運んできたTシャツと短パン(足立のお泊まりセット)を渡した。
「寝てろ」
「え!? 仕事は!?」
「こんなときは休め。部長には言っとく」
呆然とする足立に飲み物のリクエストを聞き、堂島は温かいお茶を台所から持ってきた。
「元気になったら、こきつかうからな」
「え〜…」
足立は湯のみを持ち、ゆっくり飲んだ。
堂島が台所へ行き、再び戻って来ると、足立は室内着に着替えていた。
濡れタオルを足立に渡し、予備のお茶は机に置いた。
布団に横たわった足立は、素直に目を閉じる。
「他に欲しいものは?」
足立は首を振る。
堂島は電気を消した。
替えのハンカチを取りに寝室に行き、居間に戻ると、静かな寝息が聞こえてきた。
ボールペンの音がする。
足立はゆっくり目を開けた。
寝たまま視線をめぐらすと、台所に堂島を見つけた。
もう夜なのだろうか。
微かにコーヒーの匂いがする。
堂島と目が合った。
「起きたか」
堂島が電気をつけ、足立の枕元に座る。
おでこに掌が触れてくる。
「熱はないな。体調は?」
「昼より、いいです」
「食欲は?」
布団を握って、足立は首を振る。
「おかゆはあるから、いつでも食えるぞ」
「堂島さん作ったんですか」
「おう。俺だってそれくらいは作れるぞ。…疑ってんな、その目は」
足立がからかうと、堂島は「甥に電話で教えてもらった」と白状した。
子供二人は外泊らしい。
体調が万全なら、家中で堂島とイチャイチャできるのに。
もったいなくて、心中、舌打ちする。
「もうちょっと寝るか?」
「えぇ。堂島さんは?」
「仕事あるからな」
「それ、僕の仕事だったりします?」
昼間の会話が蘇る。体を起こすと、台所の机に見慣れたファイルがあった。
「まぁ、その……明日、確認しろ」
堂島は視線をそらす。
不器用な優しさに、足立は赤いネクタイを引っぱり、口づけた。
貪るのではなく、獣が愛情を示すようなついばみ方だった。
「夏バテでも、これは食べれるみたい」
足立が堂島の唇を吸う。
堂島は赤くなりながら、足立の好きなようにさせてくれた。
好きなだけ味わった後、足立はもう一度布団にもぐった。
堂島は服の乱れを直し、台所に戻る。
「堂島さん、こっちで仕事してくださいよ」
足立が自分の横の机を指す。
堂島は、もう今日はとことん足立の要望を聞き入れる気になったのか、書類とペンを持って居間に来た。
足立の横に座り、書類を机に置く。陰影で体のラインが際立つ。
見惚れて、布団に丸まったまま近寄った。
「堂島さん」
「ん?」
「枕、低いです」
「バスタオルでも巻くか」
「ここがいいです」
堂島の膝に、ちょこんと頭をのせる。
ドキドキしながら見上げると、恋人は目を丸くしていた。
堂島さんってまつげ長いよなぁと関係ないことを思いながら、首を傾げる。
「駄目、ですか?」
「いや……その」
「なになに?」
子供っぽく甘えると、堂島は陽だまりの猫みたいに笑った。
「お前の髪、くすぐったい」
なにこの可愛い生き物。
「もっと、くすぐったいことします?」
「馬鹿、早く寝ろ」
堂島の左手が足立の目を塞ぐ。
足立はくすくす笑って、目を閉じた。
やがて、ボールペンを走らす音が止まり、足立の髪を優しく撫でる音が耳を撫でた。
→ページの先頭に戻る。
**********************************************
お題お借りしました! >>>TOY*
→ページの先頭に戻る。