音楽が鳴りやみ、胸の前で組んでいた腕を吐息とともに解いた。
横から拍手が聞こえる。先ほど一緒に踊ったマーガレットだろう。
マリーは急に恥ずかしくなって頬が熱くなったが、それを隠すように足音高く、群青色のソファに座っているマーガレットの前に立った。
「マーガレット、いいとこ取りでずるい。いつ練習したの?」
「あなたは? とても素敵だったけれど」
「わ、私は! ……ばかきらいさいてー」
マリーは下を向いた。マーガレットは高く鳴らしていた両手を、静かに膝の上に置いた。
「ごめんなさい。あなたをからかうつもりはなかったの。一緒に踊れて楽しかったわ。ありがとう」
「……私も。息、合ってたと思うし……」
マリーは小さく言った後しばらく黙っていたが、マーガレットに促されてソファの端っこに座った。
「……マーガレット、ダンス得意なの?」
床を見て、そっけなく言う。
「昔、踊りを嗜むお客様がいたの。その方に教わったのよ」
「こんな激しいのを?」
「もう少し緩やかだったかしら」
「やっぱり。なんか……慣れてたし」
視線を上げると目が合った。マーガレットは優しく微笑む。
「そう言ってもらえて嬉しいわ。でもね、今回のダンスは私にとって新しい挑戦だったの。
ダンスは種類によって体の使い方が違うから、今回の振り付けと『前回の癖』が、けんかしないようにするのが難しかったわ」
「マーガレットにも、苦手なものがあるんだ」
「苦手というより未体験なこともあるということよ。お客様の数だけ、世界が広がるの」
「嫌なこともあるんじゃない?」
「今のところないわ。それに、どんなお客様が来られるかワクワクしない? もしかすると、
怪盗のお客様だって、いらっしゃるかもしれないわ」
「怪盗来るの?」
「必然ならね」
「いつ? 他には誰が来るの?」
「……あなたに迎え入れる覚悟はある?」
マリーは、言葉をつまらせた。
マーガレットの笑みは、攻撃にも防御にもなる。
「ベルベットルームは、全てのお客様を受け入れる。それが力を司る者の、私の役目。あなたは、どんな道を選択するかわからないけれど、どこに進んでも覚悟がいるわ」
「マーガレットは、ずっとここにいるの?」
「さぁ……。でも、私がこの部屋を去るときは、お客様への興味と探求がなくなるときでしょうね。
エリザベスのように、別の道を歩むとしても、世界への興味は失いたくないわ。もし、歩みを止めるなら、それが私の『死』になるのでしょう。死とは、創造を止めることを言うのかもしれないわね」
マーガレットは、宙から一枚のタロットカードを取り出す。
指で挟み、回転させ、表の絵を見せた。
ドクロ。笑ったように見えて、ぞっとする。
マーガレットはタロットを上下逆さまにし、「再生にもなるわ」と謎めいた微笑みを浮かべた。

その笑みに引きずられるように、マリーの中にイメージが浮かぶ。
人魚姫、ピエロ、星屑。
堕天使が羽ばたき、漆黒の羽が大地に降る。
天と大地。生と死。虚無と希望。魂の輪廻。
虹色の乱舞に、パトスが暴れ、『私』が飛び出し咆哮する。
私は、ここにいる……!

マリーは頭を振ってイメージを打ち消した。溜息を吐く。
自分が踊った理由が、今になってわかった気がした。

「さ、もう一踊りしましょう」
「え、まだやるの?」
「ふふ。まだまだ踊り足りないわ」
あなたは? と金色の瞳が問いかけてくる。

マリーは、遠ざかる群青色の背中を、すぐに追いかけた。
舞台の中央に行くと、探求者に挑戦するように、大胆なポーズをとった。






P4Dのマリーの「ずるい」発言が可愛くて、書いてみました。
怪盗うんぬんは、もちろんP5への伏線ですv

中盤でマーガレットが存在意義のことを話しましたが、当初は「老い」について語っていました。
ちょっとギャグすぎないかい? という心(パトス!)の声に従い、やや真面目モードで書きましたが、次回があれば、そのネタで弟とコントさせてみたいですv

今回は、漆黒の羽が書けたのでよし!