Aquarium Note-N




プール横の広場には、白い机と椅子が並び、それらが陰になるようにパラソルが立てられている。
堂島は十分な空きがあるのを見て、自分達の椅子と机を確保する。
椅子に深く座り、のんびり待っていると、売店から軽やかな足音が近づいてきた。
「お待たせしました〜!!!」
子供達がフードメニューを机に置く。
左側には、かき氷やアイスクリーム。
残りは里中が満面の笑みで、エレベーターガールのように案内した。
「こちら、左から肉丼、焼肉サンド、唐揚げ棒、メガハンバーガーに、期間限定激辛ビフテキ串!
そしてお口直しの、肉カレーとチャーシュー麺でございます!」
すばらしい。見事な肉推しだ。
「堂島さん、どれがいいですか?」
「先に選んでいいぞ」
真剣に悩み出す少女。
「冷めちまうぞ」
「えっ、うーん」
決めかねる様子に、堂島は3本あるビフテキ串を1本とった。
「食い足りなかったら買ってきてやるから」
「は、はい」
美味しそうに頬張る里中に、こちらまで笑顔になる。
「お前、本当にうまそうに食うな」
「ほーれふか?」
「あぁ。こっちまで幸せな気持ちになる。隣にいてほしいタイプだな」
里中の口が止まる。
「どうした?」
「い、いえ。……いただきます」
心なしかおしとやかに食べ始めた里中に、堂島は首を傾げた。
堂島もビフテキ串に専念したが、途中で、「この叔父だから、あの甥か」と聞こえた気がした。

「お父さん、おいしい?」
かき氷を持った菜々子が隣に座る。
「おぅ。菜々子もうまそうだな。舌だしてみろ」
菜々子が、べーっとする。いちご色の舌が現れ、くすくすと笑い合った。
「お父さんもいる?」
「おぅ」
「はい、あ〜ん」
「うん。うまい」
少し舌がひりひりしたが、菜々子が嬉しそうなのでよしとする。
「あ! 堂島さんも、舌がピンク〜!」
「菜々子ちゃんと、お揃いですね」
「お前らも、色ついてるぞ」
かき氷を食べていた女子達は、悪戯が見つかったように笑った。
斜めに座っていた男子達も、乾杯するようにかき氷を持ち上げ、べーっと舌を出した。
赤、ピンク、黄色、緑、青、紫、白。一人だけトロピカル。
「虹みたいだな」
お互い見合って、笑った。
「あ! 私、いいこと思いついちゃった!」
手を叩いた天城の方を向く。
「かき氷、全種類食べたら、舌が虹色になるんじゃない!?」
「えぇ!?」
「そうなの!? 菜々子みてみたい!」
「でも、それ誰がやるんすか」
「ん〜、色が濃くついちゃってる人は駄目だよね。あんまり食べてない人って……」
里中、甥、堂島の三人に視線が集まり、ターゲットは一人に絞られた。
「堂島さん! どうぞ!!!」
「俺かよ!?」
「叔父さん、ファイトです」
その一言で、堂島の周りにかき氷集団が集まる。
「堂島さん、私のかき氷食べてください!」
「私のも!」
「さぁパパさん遠慮せず!」
「えっ、ちょっ、みなさん!?」
白鐘がうろたえる中、次々に堂島の前にスプーンが突きつけられる。
迫力に押されて口を開けると、次々と舌に乗せられた。
赤、ピンク、黄色、緑、青、紫、トロピカル。
口の中はパーティー状態。
涙目になりながら、どうにか嚥下した堂島は、「お・ま・え・ら〜!」とこめかみをひくつかせた。
「叔父さん」
「あぁ!?」
大口を開けた瞬間、菜々子が目を丸くする。
「お父さんの舌、虹色だ!」
「あ、ほんとだ! すごいすご〜い!」
「見せて見せて!」
「ちょっ、お前ら」
「叔父さん、サービスサービス」
羽交い締めにしてきた甥の指が、口内に入る。
逃げる舌を、長い指が愛撫するように動き押さえ……。

1分後。

「すみません叔父さん」
「私たち、やり過ぎました」
腕組みする堂島に、平謝り隊が合掌している。
「あの。お詫びにこれを」
甥が缶ビールを渡してくる。
「お前、どこでこういうの覚えてくるんだ?」
「お父さん、まだ怒ってる?」
不安そうな菜々子に、「いいや」と苦笑した。
「……ったく、すげぇ味がしたぞ」
「ど、どんな?」子供達の顔が好奇心に輝く。
堂島はニヤリと笑った。
「天国行きって感じだな。お前らも、やってみるか?」
「遠慮するっす」
花村の言葉に、軽い笑いが起きる。
堂島は時計を見た。
「あと2時間で閉まるぞ。最後、楽しんでこい」
『はい!』
プールに走って行った子供達に手を振り、堂島は頭を掻いた。





閉園のアナウンスと共に、全員、外に出た。
稲羽駅で解散し、堂島は菜々子と甥と一緒に歩く。
夕陽に染まる道が、久しぶりにきれいだと思った。
「お父さん、今日はありがとう」
菜々子が堂島を見上げて微笑む。
「菜々子、すっごく楽しかった。お父さんは?」
「お父さんも楽しかった。菜々子が誘ってくれたおかげだ」
菜々子は、ぱっと顔を明るくした後、少し恥ずかしそうに言った。
「あのね。本当はずっとお父さんと一緒に遊びたかったの。
でも、お仕事あるし、今日もさそうの迷ったんだけど、
お姉ちゃん達が『さそってみようよ』『私たちも一緒にお願いしてあげるから』って、言ってくれて……。だから今日はね、みんなのおかげなの」

堂島は「そうだったのか」と思った。
今日一日の子供達の行動が腑に落ちる。
「あいつらに気ぃつかわせちまったな」
「大丈夫ですよ。みんな楽しんでましたから」
甥が微笑む。菜々子は頷く。
じんわりと胸の奥があたたかくなる。
……これが家族の休日ってやつか。

堂島は、ちょっと咳払いして口を開いた。
「……菜々子、次はどこへ行きたい?」
「え、いいの!?」
「あぁ。菜々子の好きなとこでいいぞ」
「えぇっとジュネス!」
「いっつも行ってるだろう?」
「菜々子、ジュネス好きだもん!」
「じゃあ、ジュネスと、他は?」
「ん〜、えっと……」
「沖奈市は?」
「あ! いいね! 他にも他にも……!」
菜々子と甥が候補を挙げていく。
堂島は何度も頷き、休日の残り時間を、プールでゆったり漂うように楽しんだ。





菜々子ルートでした。
別名「堂島親子に楽しんでもらおう」の会。
彼らは変な無理はしておらず、自分たちも楽しんでおります。
一生懸命な彼ららしい?

今回は書きませんでしたが、特捜隊一人一人と堂島さんの人生相談みたいな会話があってもよかったかな〜と思います。
いつか何かのネタで使えればいいですね♪

他ルートとリンクする部分もありますので、色々想像しながら、それぞれの話を楽しんで頂けたら幸いですv
それではまた別のルートで!


aquarium……水、水の、水中の
note……記録、記録する