ライターがない。
ポケットを探って、足立は昨日のスーツに入れっぱなしだと気づいた。
予備のライターは切らしていたし、所轄で吸いそうなやつは出払っている。
1人だけ心当たりはあるが・・・どうしようかな。
立ちほうけ、視線をさまよわせながら、
咥えてしまった煙草を上下にピコピコ動かした。

あ〜縄文人でもいいから、火ぃくれないかな。

喫煙所の扉が開いた。
「あ、お疲れさまです」
不機嫌そうな堂島さん登場。
「ここにいたのか」
「外回りですか?」
「それもあるんだが、この書類」
また煙草ピコピコを始める。
「この書式の・・・」
ピコピコ。
「開催日時が・・・」
ピコピコ。
「参加人数も・・・」
ピコピコ、ピ。
「・・・何してんだ?」
「火、なくて」
へらっと笑ってみる。
「持ってません?」
「禁煙中だ」
「何かありましたっけ?」
「菜々子が・・・」
言いよどむお父さん。
あぁ、あれかな。
お父さんクサーい、お父さん吸っちゃだめだよ、みたいな?
「まぁ、未成年の甥もいるからな。
ちょっと自粛ってやつだ」
「へぇ・・・」
優しいパパだな。
その優しさのカケラを部下にもくれませんかね?
「お前、吸うんだな」
「はぁ、たまに」
「火はないんだよな?」
「そうですけど。・・・・・・っ!?」
堂島が顔を近づけてきた。
キスできそうな距離。
思わず目をつむると、唇が・・・。

「もらうぞ」

ドキドキしながら目を開けると、
堂島はもう離れていた。

俺の煙草を咥えて。

「ギリギリ禁煙かな」

堂島もピコピコを初めて、俺は真っ赤になった。
ちょっと待て。
あれか。
このおじさんは、ポッキーゲームみたいに
俺の煙草を唇で咥えて強奪していったってことか。

「エコだエコ」
そういう問題じゃない。
・・・こんのエロオヤジ。
ドエロい攻撃を、あっさりやりやがって。
しかもそのエロさを、当人は全然わかってない。
俺の純情、かえせ。

「足立、口あけろ」
「え?」

長い指が、口内に入ってくる。
「はっ、んっ」
「禁煙対策」
じゃ、と堂島は出ていった。

へなへなと俺はイスに座り込む。
本当に、あの人は心臓に悪すぎる。
叫びたいのをどうにかこらえて、両手で顔を隠した。

「・・・エロオヤジめ〜」
口内を探ると、舌の上で甘みが広がる。
チョコレートで禁煙って、可愛いなオイ。

かわりに堂島の口に嬲られた煙草を思い出した。
間接キス。
そんな想像でさえ、もう走り出しそうになるくらいたまらない。

あの人が動く理由が、自分でありたい。
煙草とか仕事とか、理由がなくても会いたい。
体だけでも繋げたい。
けれどまだ、小さな理由を積み重ねないと近づけない。
いきなりキスしても、距離を置かれる。
いつかその強引さを許してくれても、
決して懐には入らせないだろう。
優しいが、残酷だ。
それが堂島を好きになったリスク。
だからこそ、はまる。

今は小さなきっかけを恐れ楽しみながら、
あの人のそばにいる。
家族よりも長く、近く、そばにいたい。
ささやかで馬鹿馬鹿しい幸せな願い。
いっそ閉じ込めて、憎悪と情欲に染まる堂島を独占しようか。

「チョコレートねぇ・・・」

ふぅ〜、と長く息を吐き、手をあごの辺りにもっていく。
次の手、次のきっかけ、と。
ほろ苦い甘さにまみれた唾液を飲み込んで、自分の席に戻る。

「足立、車だしてくれ」
「はい」


2人で乗り込み、俺はささやく。


「ねぇ堂島さん、シガレットチョコ買いに行きません?」





乙女な足立。されど黒い足立、でした。
今回の堂島さんは、なんという天然(笑)
悪いお父さんだな。わざとだったらもうユーやっちゃえよ。
そんなお父さんを困らせる菜々子は最強★
そういえば足立さんは、一人称「僕」なんですね<いまさら
う〜んでも、気が立ったり、もんもんとしているときは
「俺」であってほしいような。

そんな妄想で、今日もニヤニヤ。