台所に溜まった大量のタッパを見ながら、足立は「返すの面倒くさいなー」と呟いた。
足立のことをストーキングしてくる変態高校生から、惣菜(手作り)入りで毎日渡されるのだが、2週間もすればタワーが作れる量になる。
積み上げ方を工夫すれば某キャラクターや某ゲームのスライムの形になるかも? と挑戦したい気持ちがちょっとだけ湧き上がり、さっき密やかに試してみたが、数回やったところで乗せすぎで崩れ、飽きてしまった。
そろそろ返さないとけないが、多少はお礼をした方がいいかもしれない。
いくら苦手な相手からとはいえ、もらってばかりでは後で何を要求されるか…震えがくる。
「……ジュネスかな」
この町で買い物といえば、そこしか思いつかなかった。
***
手編みのマフラーを適当に首に巻き、モッズコートを着込んだ。
前者は例の高校生からのプレゼントで使いたくないが、前に放っておいたら「あぁ。縛ってほしいんですね」とわけのわからない理屈で拘束されて良からぬことをされたので、時々使うことにしている。
外に出ると風が冷たい。
雲の形が昔、理科の教科書で見た形をしていて、テンプレートな季節を感じる。
人の波をよけながらジュネスの自動ドアを開け、横目でキャベツの安売りをチェックして、エスカレーターに乗った。
1階以外のフロアに足を向けるのは久しぶりだ。
「さて、と」
エスカレーター横のフロア案内を見て、どこに行こうか迷う。
高校生の好きなものなんて検討もつかない。
自分が学生のときは、塾と本屋、コンビニくらいしか行かなかったから、たまに食べた肉まんがおいしかったな、という記憶くらいしかない。
無難に思いつくのは、文房具、服(流行りがわからない)、本(参考書?)。
高いものだと変に期待させるようで嫌だし、下手なものを送って弄られるのも嫌だ。
「あぁ、めんどくさー」
ぽりぽりと頭を掻いて、とりあえずフロアを見渡す。
「おにーちゃん!」
反射的に柱の影に隠れる。声の方を、そぉっと覗くと、10メートル位向こうに、堂島一家がいた。
……クソッ。なんて嫌なタイミング。
足立は彼らから見えない位置に、忍び足で移動して、こっそり彼らの動向を探った。
堂島さん、菜々子ちゃん、……僕がここに来る原因なった高校生。
堂島さんが2人に笑いかけた。
「今日は好きなものをおごってやる。何がいい?」
「菜々子、ラブリーンのお菓子ほしい!」
「あのチョコのやつか? いいぞ。…お前は何がいい?」
堂島さんが、例の高校生に声をかける。
足立は耳を澄ました。
「俺は……いいですよ。バイトもしてますし」
……馬鹿。そこは言っとけよ。僕が選ぶ基準になるんだから。
「遠慮するな。これでも俺ぁ稼いでるんだからな」
……堂島さんグッジョブ! もっと言ってやってください!
「でも……」
……オイオイ。僕につめよるときの、あの変態的ガッツを見せろよ!
足立は、ぐっと拳を握った。
「俺はお前に感謝してるんだ。こんなときくらい、恩返しさせてくれや」
……クッ。僕だって、そんな風に堂島さんに言われたい。ウニ食べたい。
「そんな……。俺だって叔父さんに感謝しています」
「ははっ。そんな風に言われると、照れるじゃねぇか」
「二人とも、顔赤いよ?」
……ちっ。さっさと言えよ。
「じゃあ……タッパ」
……え?
「好きな人に、俺の料理、食べてほしいですから」
少年はとろけそうな笑みで、言った。
「お前ってやつは、いっつも他人のことばっかだなぁ」
「好きな人のために動くのが、俺の趣味みたいなもんですから」
「……ったく。お前には敵わねぇな。好きなだけ買えや」
「おとーさん! おにーちゃん! タッパ売り場、こっちだよ!」
「行きましょう」
「おいおい、そんな手ぇ引っ張るなって」
堂島一家の声がだんだん遠くなる。
「ばっかじゃないの?」
足立は唇を歪め、ごしごしと顔を擦った。
そうでもしないと、この顔の熱さをどう説明したらいいのか、わからなかった。
……結局、あの子に何買えばいいんだよ。
振り出しに戻った今日の予定に、マフラーを口元まで寄せて、「クソッ」と呟いた。
***
「これ」
翌日、勤務後に立ち寄った堂島家の玄関先。
足立は扉を開けた高校生に、ジュネスの紙袋を突きつけた。
中には、綺麗に洗った大量のタッパが入っている。
「食べてくださったんですね。ありがとうございます」
にこりと彼が微笑む。
足立は、「じゃあね」と踵を返す。
「足立さん」
右腕を掴まれ、仕方なく振り返る。
「おかず作ったんで、持って帰ってください」
ジュネスの袋に入ったタッパを渡される。
あのとき、堂島さんに買ってもらったものだろうか。
「あの、さ」
コートのポケットに両手をつっこむ。
らしくもなく、心臓がドキドキする。
「菜々子ちゃん、ケーキ食べたいって言ってたよ」
……遠まわしの言葉。気づかれたくないけど……。
「……足立さんは、何のケーキが好きですか?」
どんなに逃げ回ったって、そうやって君が気づくから。
「……今、食べたいのはショートケーキかな。生クリーム、……好きだから」
「……それは口移しで食べたいということですか?」
「なんでそうなるんだよ」
ジュネスのときの純粋な心を思いだせよ。
「……それだけ、だから」
足立は逃げるように、その場を去った。
「馬鹿みてぇ」
商店街を早足で歩きながら、あんなこと言うんじゃなかったと眉をひそめる。
彼はいつ気づくだろう。
返したタッパの紙袋。その一番下にいれた、ケーキの……。
「……やっぱ文房具にしとけばよかったかなー」
渡してしまったものは仕方ない。
夜空で光りだした星々に、「見てんじゃねぇよ」と心の中で、八つ当たりする。
「冷蔵庫にビールあったっけ……」
今夜は飲んで忘れてしまおうと、マフラーで赤くなった頬ごと口元を隠した。
プレゼントを買うのに四苦八苦する足立さんでしたv
後日、生クリームとかマフラーで、いちゃこらするといい……!
ここまで読んでくださってありがとうございました!