完二は朝から落ち着かなかった。
前日から用意した紙袋の中身を何度もチェックし、家の中をうろうろするので、母親に「デート?」「ちげぇよババァ!」「頑張ってね」と勘違いされるくらいだった。
「ちょっとダチに会うだけだっつーの」
つぶやきが言い訳に聞こえて、顔が赤くなる。
「クッソ! じめじめすんのは性に合わねぇ。行くぜコラァ!」
猛ダッシュで稲羽駅の電車に乗り込む。
ガタン、と横に揺れて景色が流れる。
持ってきた紙袋を潰さないように座り、腕を組むと、できるだけ雄々しい顔で予定をシュミレートし始めた。
「次は巌戸台、巌戸台〜」
アナウンスを合図に、客がおりていく。
稲羽市では考えられない人の群れに、完二はドキドキしながら出口に向かった。
改札口を過ぎる。
「巽さん!」
呼ばれた方に顔を向け、完二は、ぱっと顔を輝かせた。
「天田! 久しぶりだな!」
「遠いところお疲れ様です」
微笑む天田の横で、白い柴犬が尻尾を振る。
「コ、コロちゃん〜! 元気だったか?」
「ワンッ!」
「元気だ、ですって」
「そりゃあよかった! え、えっと、ちょっと触っていいか」
「ウゥウ……」
「ご飯の後ならいいそうですよ」
「よし、今すぐ行くぜ!」
「あ、お店はこっちですよ!」
昼食はオープンカフェで取ることにした。
通りに並ぶ丸く白い机の横で、コロマルは背筋を伸ばし、今か今かと肉メニューを待っている。
「里中先輩と気が合いそうだな」
やってきた塊肉を渡すと、心底うまそうに平らげた。
「稲羽市に来たらビフテキ串ごちそうするからな」
「ワンッ!」
「天田もしっかり食べろよ。俺、おごるからさ」
「いいんですか?」
「今日は俺が呼び出したからな。任せとけって!」
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
2人でメニュー表を覗き込んだ。追加を頼むためだ。
育ち盛りの2人は、あっという間に皿を空にし、食後の飲み物を頼んだ。
「砂糖とミルクはどうされますか?」ウェイトレスが尋ねてくる。
「えっと、一応つけてください」
天田が言うと、一礼してウェイトレスは去って行った。
「お前、コーヒー好きなのか」
「えぇ、まぁ。ブラックはあまり得意じゃないですけど……」
照れくさそうに天田が笑う。
「俺もそうだぜ? どっちかってーと、甘いもんが好きだしよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。女みてぇとか言うやつもいるけどよ、うまいもんはうまいし、好きなもんは好きだ。男も女も子供も大人もねぇな」
「お待たせ致しました」ウェイトレスが飲み物を置く。
「どうも」、「ありがとな」、「ワンッ!」
それぞれに礼を言って、一口飲んだ。
午後の風が気持ちいい。
タイミング的には、そろそろか。
完二は、膝の上でぐっと拳を握り、本題に入った。
「なぁ、ここで渡してもいいか?」
「えぇ、ぜひ」
ちょっと緊張しながら、紙袋を膝に置く。ビニール袋を一つ取り出し、天田に渡す。
「気に入るかわからねぇけどよ…」
天田が中身を取り出す。
「すごい! パーカーとストラップだ!」
天田の笑顔にほっとして、完二は次の袋を持った。
「コロちゃんにはこれを……」
中腰になって取り出したのは、上着と首輪につけるアクセサリー。
もちろん全て、完二の手作りだ。
「ワンッ! ワンッ!」
コロマルが元気に吠える。
天田が通訳した。
「今、着たいそうですよ」
「本当かっ!」
「ワンッ!」
コロマルが完二の頬を舐める。
「コロちゃ〜〜〜ん。い、今、脱がすからよっ」
「……巽さん、その発言、怪しいです」
「す、すまねぇ」と完二は言って、コロマルの衣装替えをする。
サイズはぴったり。色や模様も、コロマルによく似合っていた。
首輪につけたアクセサリーも、アクセントになっていい。
天田とコロマルの笑顔に、作ってよかったと思った。
彼らシャドウワーカーと戦ってから、いつかプレゼントしたいと考えていたのだ。
創作意欲をかきたてられたのもあるし、稲羽市を救ってくれた小さな礼でもある。
「うぉ〜〜〜、コロちゃん、すっっっげぇ可愛い! な、なぁ、ちょっとだけ撫でていい?」
仕方ないな、という顔で、コロマルは完二に体を寄せる。
「うわぁ、すっげぇフワフワ。クマ毛とも違う感触。たまんねぇ……」
「た、巽さん。声おさえて…!」
天田が口の形を「し」にする。思ったより、大きな声が出ていたらしい。
「あぁ、すまねぇ、まじすまねぇ……あぁまじやべぇ」
「クゥーン…」
コロマルの救難信号に、天田が慌てて言った。
「あ、あの。僕も着てみていいですか?」
「え? あ、あぁ」
少し正気を取り戻した完二が、コロマルから手を離す。
パーカーを広げながら、天田はコロマルに目配せした。
忍者のように、白い毛並みが姿を消す。
「あ、あれ。コロちゃん?」
「散歩に行ったんでしょう。あの、着てみましたが……どうですか?」
完全に正気を取り戻した完二が、爽やかに笑う。
「俺が言うのもなんだが、よく似合ってるぜ」
「ありがとうございます。着心地もすごくいいです。このストラップも気に入りました」
フェザーマンのレッドとコロマルの編みぐるみを取り出す。お店で売っているような出来映えだ。
「作るの、大変だったんじゃないですか?」
「いや、こういうの作るの好きだからよ。気に入ってもらえたら嬉しいぜ」
「大切にします。今、つけていいですか?」
「おう」
天田は、携帯電話とバッグにそれぞれつけた。
大人びた少年の顔が、中学生らしい幼さに弾けたので、完二は、フェザーマン全種類を編もうかなと思った。
「巽さんは、小さい頃から手芸をされていたんですか?」
「うん、まぁな」
完二は、大人びた笑みで続けた。
「家が染め物屋やってるから、そういうのに触れる機会が多くてな。物つくるのは好きだったし、自然と刺繍や裁縫ものめり込んだんだ。けど『手芸』してるってだけで、周りからはオカマとかキモいとか言われてな。せっかく好きだったことも、隠して生きるようになっちまった。けど、先輩達が俺のこと認めてくれて…………今は、堂々と言えるぜ。手芸が好きだってな」
完二は力強く笑った。照れもあったが、こうやって特捜隊のメンバー以外に、自分の思いを言えるようになったのを嬉しく思う。
「巽さん、すごいですね。僕も見習わないと」
「お前、趣味とかあんのか?」
「体を動かすのは好きです。サッカーとか、野球とか」
「おぉ。いいじゃねぇか」
「……でも、ちょっと前までは、これでいいのかって悩みもしました。僕は『子供らしく』振る舞えてるかって」
「子供らしく? お前ぇ、子供だろ?」
完二の素直な発言に、天田は苦笑して頷いた。
「僕はずっと『早く大人になりたい』と思って生きてきました。だから、急に『子供らしく』と言われても、何が何だかわからなかったんです」
「子供らしさ?」
「ん〜、無邪気で元気な、太陽のような感じでしょうか」
「でもよ。人間なんて五万といるだろ? 全員ギラッギラに明るくても、ちょっと怖いぜ?」
「そ、それは考えていませんでした」
天田は目を丸くする。完二は、少年に似ている仲間にも言うように、表情を和らげた。
「『子供らしく』って言ったって、一人一人個性は違うからさ。お前は、お前でいいぜ」
「そう、ですかね」
「あぁ。もし『子供らしく』って言うなら、俺は好きなことをガムシャラにやるな」
「僕に、できるでしょうか」
完二は力強く頷いた。
「悩むってことは、必死に探してるってことだ。それが、ガムシャラにできるパワーにもなるんじゃねぇかな。……それに、お前は独りじゃない。シャドウワーカーの仲間や俺たちもいる。だから独りで抱え込みすぎて、自分を殺しすぎんな。お前の幸せは、お前を支えてくれる人の幸せにもなるからよ。お前のために生きろ」
天田は、はっとした顔になり、俯いた。
「悪ぃ。なんか俺、嫌なこと言っちまったか」
天田は首を振った。
「巽さんの言葉に勇気、もらいました。ただ……」
天田は、少ししてから顔を上げた。
「昔、同じようなことを言ってくれた人がいたんです。それを思い出して……。
僕は、また助けられたんだ……」
「……大切な奴なんだな」
天田が顔を歪める。完二には、泣いているのか笑っているのか、わからなかった。
「あなたみたいに僕を庇ってくれた……強い人でした」
天田がコーヒーを飲み終えると、コロマルが帰ってきた。
机の下に丸くなるのを見て、完二は「コロちゃんお帰り」と、言った。
「あの人も、コロちゃんって言ってたな…」
「え?」
「そろそろ出ましょうか。電車の時間、近いでしょう?」
会計を済ませ、全員、駅まで歩く。
天田は何かを考えているようだったが、改札口が見えてくると、ぽつりと言った。
「僕も、手芸やってみようかな」
「おぉ! まじか!?」
「いろんなことにチャレンジしてみたいので」
少年の笑顔に、完二も俄然やる気が出る。
「おっし! 今度、道具持って来るぜ!」
「いえ、次は僕が稲羽市に行きますよ。ご自宅で、手芸教室をされているんでしょう?」
「おう! 前にやった『ぬいぐるみ鍋つかみ』教室は、けっこう人気あったんだぜ?」
「それは頼もしいです。僕、あんまり手先は器用じゃありませんけど…」
「心配すんな。巽教室は誰でも大歓迎だぜ!」
「よろしくお願いします」
「コロちゃんも来てくれよな!」
「ワンッ!」
「最後にもう一回、触らせて……」
「巽さん、時間ないですよ」
「お預けかよ!?」
情けない声に、コロマルが笑う。
ついで天田も噴き出し、完二もそれに続いた。
「お。そうだそうだ」
改札口を通ってすぐ、完二は振り返った。ちょいちょいと手を振って、天田を招く。
「なぁ天田」
「はい?」
「あのな。もう俺ら赤の他人じゃないんだからよ。完二って呼んでくれや」
「……完二、さん?」
おずおずと口にする天田に、完二はくすぐったく笑った。
「お前らしいな」
ぐりぐりと少年の頭を撫でる。
「ちょっ、子供扱いしないでください!」
「こりゃ友人とのスキンシップだ」
「そ、そうですか?」
「……お前、まだ俺の『ガチムチ〜』ってフレーズ、気にしてんじゃねぇだろうな」
「えっ」
「おい」
「じょ、冗談ですよ」
「……まぁいい。で、お前の名前だけど」
そのとき、稲羽市行きのアナウンスがかかった。
「完二さん急がないと」
「やべっ! じゃあまたな!」
完二は、急いで走り、階段を上がった。
ギリギリ電車に乗り込むと、席を探し、ドカッと座る。
窓の外を見ながら、言いそびれた言葉を心の中で呟く。
「乾って呼んでいいか?」
あいつはどんな顔をするだろう。
どんなことをしたら喜ぶだろう。
次は、どんなものを渡そう。
次々に浮かぶ編み図を展開していく。
完成予想図は、車内を差し込み始めた夕陽に染められていった。
初クロスオーバー作品。
P4U2で「コロちゃんに服を作ってあげる完二」が浮かんだので、つい。
ゲーム中でも天田君は完二に、完二は天田君に、ある人(達)の姿を重ねていたので、
それぞれのエピソードをオカンのように懐かしみながら書きました。
完二は今後、全仲間のために、せっせと編みぐるみを編むといいと思いますv
ちなみにP3で好きなペアは荒垣先輩とコロマルです。
かわいいね! ノーマルだよ!
他のキャラも大好きですが、アイギスとエリザベスさんは特にツボ。
CPは考えていませんでしたが、もう1回プレイしたら何か目覚めるかもwww
vita版でないかな。<PSP壊れたであります!
gift……贈り物、恩恵、天からの贈り物、才能など