夢の中に会いにきて 〜6〜
暗い気持ちを抱えたまま、堂島の帰りを待ちたくなかった。
今夜はもうだれとも話したくない。
廊下にだれもいないのを確認し、カードキーと財布だけ持って、部屋を閉めた。
堂島が出ていってから時間はたっているが、途中で会ったら気まずい。
迷ったあげく、フロアの端にある非常口に向かった。
朝方にホテルに戻れば、堂島と直接顔を会わさずに済むだろう。
扉を開けると建物の外に螺旋階段が設置されていて、下から吹き上げる風に上着がはためく。そういえばここは8階だった。果てのない暗闇に足を突っ込んだような気がして、ひやりとする。
下までおりたときは、軽く鳥肌がたっていた。
大通りに出るまでは堂島に鉢合わせないかとドキドキしたが、やみくもに歩いているうちに頭の中が冷えて、また気分が沈んできた。
・・・何やってんだろ、僕。
『お前には関係ないだろ』
堂島が言った通りだ。
彼が女と会おうが、ホテルに行こうが、自分には関係ない。
余計なお世話だし、せめてもっと軽いのりで言えばよかった。
あのときの苛立ちが蘇りそうになり、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
髪の毛をかきむしって、深く息を吐いた。
明るく開けた場所に出て、ふと立ち止まる。
駅前まで来ていたようだ。
きびすを返そうとしたそのとき、
「足立さん?」
正面から快活な声。
堂島の次に会いたくない相手。昼間会った、堂島の元相棒が近づいてきた。
「こんばんは」
失礼にならないていどにあいさつして、女性の前から消えようとした。
「堂島さんは?」
女性の問いに、思わず立ち止まってしまう。
「・・・あなたと一緒じゃないんですか」
とげとげしい声になる自分が嫌になる。
「堂島さんとは、ちょっと話しただけよ。飲みに誘ったんだけど、あなたがいるからって断られたの」
「え・・・」
「『足立の野郎、放っておいたらろくなもん食べねぇから、俺がついててやらねぇと』ですって」
「僕、信用されてないんですかね・・・」
「違うと思うわ。とっても楽しそうに話してたもの。ちょっと妬けるくらい」
悪戯っぽく笑う彼女は、どこか堂島を感じさせた。足立が来る前は堂島と相棒だったからだろうか。
この人は、どれだけの時間をあの人と過ごし、どんなことを話したのだろう。
胸がざわめいて、体が強ばった。
「あんなうれしそうな顔、私初めてみたわ」
あぁ、この人は堂島が好きなのだ、とぼんやり思う。
「大事にされてるのね」
その言葉に、全身がかっとなる。
「そんな、そんなわけっ・・・」
混乱して、僕は口ごもった。
どうにか絞り出した声は、みっともないくらい掠れていて。
「僕、堂島さんにどつかれてるだけですよ・・・?」
真面目に言ったのに、なぜか彼女は爆笑した。
「足立さんって、面白い人」
涙をぬぐいながら彼女は、ふと遠くを見るような目をして言った。
「私が相棒だったころは、あんな顔しなかった」
そんなこと言われたって・・・。
ますますわからなくなって、視線を泳がせる。
ぽん、と肩を叩かれてそちらを見ると、彼女は微笑んでいた。
「私、そろそろ新幹線の時間だから」
「明日は会場に来ないんですか?」
「呼び出しがかかってね。今から署にとんぼ返り。せっかくおいしいお店をリサーチしてきたんだけど。よかったらこれどうぞ」
情報誌を渡される。
小脇に抱えて、軽く礼をする。
「次は飲みに行きましょう、足立さん」
ヒールの音高く、彼女は去って行った。
足音すら明快だ。僕とは大違い。
ほんの少し、うらやましかった。
堂島さんには、きっとああいう人の方が・・・。
くしゃっと顔が歪む。
自分にはだれもいないのに、だれかに助けてほしかった。
>>>7
相棒vs元相棒でした。
結局、女性の名前出ず・・・!
足立さんが、彼女のことを口にする場面は、後々あるかもしれませんが。
そろそろ仲直りのターンを・・・!