足立が泥酔しているところを見たことがない。
あまり飲めないというより、酔わないようにしている風だった。
俺に遠慮しているのだろうか?
それなら今日は思い切り飲ませてやろうと居酒屋に連れてきた。
畳敷きの個室に案内してもらい、次々と酒を注文する。
初めは、自分のペースを守ろうと抵抗していた足立だったが、俺が飲め飲めと急ピッチでついでやっていると、しだいに目がとろんとしてきた。
そろそろか?
だめ押しで、度数の強い酒をついで飲ませると、足立が、くしゃっと顔を歪めた。

「ちょっ、どうした!?」
「堂島さ〜ん。僕、生きてるのが辛いっす」
えぐえぐと泣き出した足立に、「こいつ泣き上戸かぁ」と思いながら、先を促した。
「親は僕に無関心だし〜、彼女いないし〜、
生きててもしんどいことばっかりで〜、面白くないんすよ〜。
この調子じゃあ恋人すらできずに人生終わるんじゃないか〜って」
「そ、そのうち見つかるって。元気だせ。な?」
「そのうちって?」
むすっとして、足立は俺のネクタイをぐっぐと引っ張った。
「そうやって他人はテキトーなこと言うんすよ。大丈夫とか頑張れとか。
それでできたら苦労しないんすよ。ねぇ。わかってんすか?」
「・・・そうはいうがなぁ」
「ふん。堂島さんも、この酔っぱらい〜とか思ってんでしょう?
僕は本気で悩んれるのに〜」
言葉遣いがあやしくなってきた足立は、ちびちびと飲みながら、暗黒面におちていく。
「僕なんて一生だれにも愛されないし、だれにも必要とされないんれすよ。
絶望かかえて生きていくんれすよ。ふんだ、ふん」
「そんなことないだろう。お、俺はお前がいてくれて助かってるぞ」
「ほんろに〜?」
「本当だ本当!」
「ふーん。じゃ〜あ〜証明してくらはいよ〜。僕が〜堂島さんにとって〜必要だって。
僕から離れない。僕のこと拒まない。僕のいうことなんれも聞く〜って」

潤んだ目の奥に、ふと静かで強固な意志が宿る。
一瞬、俺はドキッとしたが、すぐにその輝きはまぶたの奥にしまわれて、胸のざわめきだけ残る。
「えっと、その・・・」
「あ〜、やっぱりほんとじゃないんだ。嘘つき嘘つき」
「俺は嘘つきじゃねぇ!」
「ほんろに?」
「本当だ!」
「ふ〜ん。じゃあ、証明してもらおっかな」
「おう! 言ってみろ!」
「じゃあ、キスしてくらはい」
「・・・え」
「キス。ちゅー」
「え、いや、その」
「やっぱり嘘つき?」
「〜〜〜っ。わぁったよ! してやるよ!」
やけになって両手で足立の頬をはさむ。
潤んだ目で見つめられて、ぞくっとする。
「目ぇくらい閉じろ」
「堂島さんが不正しないようにれ〜す」
「くっそ。後悔すんなよ!」

額に唇を近づけていくと、不意に足立が上を向いた。
口と口が触れ合う。
「・・・っ!?」
し、舌はいってきたー!?
逃げようとした後頭部をおさえこまれ、足立のものはさらに深くまでもぐってくる。
酔っぱらいとは思えない激しい舌づかいに、背筋がぶるっと震える。
「ちょっ、はぁ、んっ、ま、待ちやがれ・・・!」
どん、と胸をつくと、足立が傷ついた目で俺を見た。

「やっぱ僕のこと、どうでもいいんだ・・・」
しゅんとする足立に、俺は完全に血が上った。
「ぐだぐだうっせぇな! お前、どんだけ俺のこと信用してないんだ!?
・・・よ〜し、わかった。お前、手錠出せ」
「え?」
「俺の手にかけろ」
カシャン、と音がして、両手は自由を失う。

「俺はお前のすることに抵抗しない。
お前は俺を好きにすればいい。
今夜は、とことんお前につきあってやる。
お前が俺を信じたくなるように、好きなようにしてみろ」

「・・・いいんですね?」
「おう」
「何するかわかりませんよ?」
「お前に信用されないよりましだ」
「・・・」


正座している膝に、足立が乗リ上げてくる。
つながれている手を持ち上げ、恭しく唇を落としてきた。




>>>TIP*13-4