夢の中に会いにきて 〜4〜
それからも拷問のような時間は続いた。
風呂に入れば体が反応し、頭から冷水を浴びた。
部屋にあった浴衣を取って、メビウスの輪みたいな帯でバスルームから出ると、それがまた堂島の気をひいたらしく、こうやって手をとられる。
「だから! いいですって! 自分で巻き直しますから!」
「まだ何日も泊まるんだぞ? 今、知っとけば一生ものだろうが」
ぐいっと腰を引き寄せられて、抵抗できない。
面倒見がよすぎるんだよ堂島さん!
あぁもうバスローブの方を着とけばよかった。
「解くぞ」
「わわっ」
しゅるっと衣擦れの音がして、浴衣の前がはだけた。
立っている僕の前に堂島がひざまずき、解いた帯を持つ。
「よく見とけよ。まず端っこを少し折って・・・」
そんなことより、堂島さん、近い・・・!
「腰のあたりで巻いて・・・」
お腹のあたりに、堂島さんの息が・・・!
「こうやって下から通して・・・」
こめかみが、どくどくと脈打って、うまく息ができない。
「ほら。これで解けにくいだろ。覚えたか?」
無理に決まってんだろ!
これ以上は本当に駄目だ・・・!
解放されたとたん、限界まで赤くなった顔を隠すようにベッドの端に避難する。
「ぼぼぼ僕、もう寝ますからね!」
ベッドにもぐりこんで、堂島の方をちらっと見ると、対面にある椅子に座りながら、机に頬杖をついていた。
「ここのランプだけ点けててもいいか? 後から消すからよ」
「どうぞ! 僕はこっち半分で寝ますから、入ってこないで下さいよ!」
「お前こそ、蹴るなよ」
そういうことじゃないんだけど!
「・・・堂島さんってホモじゃないですよね?」
「はぁ?」
「なんでもないです! おやすみなさい!」
「・・・あぁ、おやすみ」
頭から布団を被って、背を向ける。
爆発しそうな頭と脈拍をどうにかなだめたかったが、目をつむってもシーツを握ってもドキドキしっぱなしで、寝るどころじゃない。
何十分たったか、堂島も僕の横にそっともぐりこんできた。
背中にじんわりと体温を感じて、こみあげてきた悲鳴をどうにか飲み込んだ。
今日はとんだ厄日だ。
堂島さんを意識するなんて、・・・僕、欲求不満なのか?
できるだけ暖かいところから離れて、溜息を吐いた。
あぁ、せめて、夢の中では美人女子とイチャイチャできますように。
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あまりにも懐かしい風景に、初めそこがどこかわからなかった。
しばらく暗い廊下を歩くと、少しずつ記憶が解けてくる。
行きたくない。この先に行きたくない。
僕の意志に反し、体は海藻のように揺れる壁をすり抜けて、居間へ続く扉を開ける。
これは夢だ。
だって、僕の手がこんなに小さいわけないもの。
ランドセルをおろして、返されたテストを出した。
あの人に見せに行くためだ。
なんせ、100点とったんだから。
誇らしい気持ちと緊張でドキドキしながら、テレビを見ている人に「お母さん」と話しかける。
「ね。見て見て! 僕、テストで100点とったんだよ!」
「・・・」
「えっとクラスで1人だけだったんだ! 1番! すごいでしょ!?」
「塾の支度はできたの」
「え・・・。あ、まだ」
「早くしなさい。遅れたら私が先生に嫌み言われるんだから」
「・・・ごめんなさい」
目も合わせない母親に、僕はくしゅくしゅにしたテストを持って2階へ上がった。
わかっていた。わかっていたことだった。
母親は、僕に関心がない。
あるとすれば、他人に見せつけるためのブランド品になったときだけだ。
「頭のいい私の子」
「さすが私にふさわしいできた子」
「でもあまり近寄らないでね。うっとうしいの」
そんなとこだ。
外面だけはいいから、周りは「いいお母さんだね」なんて言う。
僕がそれに頷いてきたのは、それでも母親が好きだったからだ。
愛されたい、認められたい、僕の方を振り向いてほしい。
だが僕が何をしても、あの人の目にとまることはないのだ。
それを今日、痛烈に突きつけられた。
僕に関する何よりも、新しい靴や洋服を見ているときの方が、よほど嬉しそうだ。
父親は父親で僕のこと、というより家族にあまり興味を示さない。
最後に家族と一緒に温かいご飯を食べたのはいつだっけ?
渡された千円札で、今日もパンを買って、1人で食べよう。
塾の鞄を自分の机に置いて、ぽつりと零す。
「あ〜、バカみたいだなぁ」
家族とか愛情とか。
「世の中クソだな」
むくりと頭をもたげたどす黒い感情に、唇を歪めた。
テストをゴミ箱に捨てて窓を開ける。
木枯らしが入ってきた。
冷たさに息が詰まって、体が震え始める。
「うっ・・・っう、くっ」
うずくまって顔を隠した。
なんでもない。こんなこと。
僕は僕のために生きればいい。
それだけのこと。
冷たい風が吹いても、ただ寒いだけ。
窓を閉めて、自分の身を守ればいい。
僕以外、だれもいないんだから。
頬よりも冷たい雫がつたい、唇を噛みしめる。
不意に、体の片側に温かさを感じた。
寒さも限界にきていて、僕はそちらへ身を寄せる。
すると毛布のような布にふわりと包まれて、風が当たらなくなる。
それでも震えは止まらない。
「寒い。寒いよ」
ぎゅっとそれに抱きついて、顔をうずめた。
>>>5
前半と後半の落差が・・・!
浴衣とかランドセル補正で許してプリーズ。
えろいよね浴衣。
次回はホテル2日目。